【旅に出よう~温泉はにっぽんの宝~61】女性にやさしい温泉宿 山崎まゆみ


旅に出よう 温泉はにっぽんの宝 61

 入院手術を決めた時には、それら全て伏せて、療養が終えたら涼しい顔をして復帰しようと決めていました。なぜなら、いつも温泉に入っている私が病になれば、温泉にケチがついてしまいそうと思ったからです。けれど傷を負ったから新しく知りえることの連続でした。この体験を公表して伝えるべきだと思いました。実際、乳がんを患い施術跡を気にして温泉を楽しめなかった女性に向けた「ピンクリボンの宿」の取材はしてはいましたが、やはり術後の思い入れは異なりました。私は乳がんではありませんでしたが、体に傷を負いました。

 先日、新潟県赤倉温泉香嶽楼に宿泊した時のこと。温泉街が形成される当初からの由緒ある宿なので建物自体は古い印象はありますが、女将の采配からか、灯りの使い方がしゃれていてどこも清潔。館内の壁には立派なリースが飾られてあり、気持ちが華やぐ空間でした。料理も赤倉の野菜をふんだんに使っていて、消化も良さそう。ひとり旅も歓迎というのも嬉しい。

 温泉は山岳信仰である須弥山・妙高山から5キロ引いた湯をそのままの状態で湯船に注いでいました。硫酸塩泉の効果か、傷に優しい。傷口を覆うガーゼを付けていたテープのせいで肌荒れしていたのが見事にきれいになりました。

 そうした心地の良い宿ながら、それ以上に心に残ったのは脱衣所に掲げられた「Myoko Think Pink」マークです。妙高の宿泊ネットワークで「手術など体に傷がある方も、温泉入浴を愉しんでいただきたい」という説明が掲示してありました。専用のガーゼタオルの用意があり、1枚500円で販売していました。「浴槽の中で使用しても衛生上の問題は一切ありません」という表記もある。

 身体に傷がなかった頃は身体を隠すことをせずに堂々と湯に浸かっていました。けれど今は傷跡を手で覆います。傷はあれば隠したくなります。まして女性ならば。傷を負ったから、なおのこと温泉を必要としているのに、その人たちへの心遣いがないのはおかしい。だからと言って、貸し切り風呂や客室に付くプライベート風呂で全て済むかといえば、そうではない。宿がメインとする大浴場に入りたい。だから、掲示されてあった「Myoko Think Pink」の取り組みを見た時に、優しくしていただいたような温かい気持ちになりました。そして妙高温泉郷の印象が変わりました。

 観光は国の光を観るという意味ですが、温泉は人に温かさを与えてくれる泉です。こういうおもいやりが、いま注目されている「おもてなし」の原点なのではないでしょうか。

 (温泉エッセイスト)

 
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